Home / 豆知識 / 映画「バンクーバーの朝日」を観た感想と辛口評価

 
映画「バンクーバーの朝日」を観ました。

ここでは、個人的感想を述べます。
映画をおすすめしますが、私の評価は辛口です。


映画の良かったところ

先に良かった点を挙げます。

原作のストーリー(これは映画をほめているわけではありませんが)

豪華キャスト

・手のこんだセット(栃木県足利市で撮影されたそうですが、本当に昔のバンクーバーの街並みのようでした)。

これらを踏まえて評価すると、私個人としては平均点以下、10点中4点くらい。




「日本人がカナダで頑張った」に違和感


ひとつ、大きな欠陥があると思います。

この映画が、「外国で日本人が頑張った話」として描かれていることです。

もしそういうテーマならば、主人公の父親たち移民一世を主役とするべきで、それはそれで素晴らしい映画ができると思います。


差別を受けた(日系)カナダ人が、(白人)カナダ人をスポーツで見返した話、ではないのか?

しかし、これは朝日軍の話なので、「日系という出自を理由同じカナダ人から差別を受けたカナダ人が野球試合に勝つことで偏見を見返した話」として描かれるべきだと思います。


日系人にとっての「日本」は先祖や親戚の国であって自分の国ではありません。


自分はカナダ人なのに、なぜ同じカナダ人から差別されるのか、という不満がもっと表現されないと、原作の趣旨が伝わらないのではないかと思います。



戦争が差別を助長したとしても、同じ枢軸国側のドイツ系やイタリア系カナダ人は財産の没収や強制移住とまではならなかったわけで、やはり「日系」が不当に差別されたといわざるをえません。


そもそも、朝日軍の活躍は戦前の話ですが。


日本人の俳優を起用しているので、「カナダ育ちの日系人」を演じるのは難しいと思いますが、それでももう少しうまい作り方があったのではないか。
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身内からの冷遇はとても辛い

外国で生きていくと、さまざまな困難に直面します。

異国カナダで仕事・生活をする私の個人的経験からいわせてもらえば、外国で騙されたりしたときに、相手が外国人でも腹は立ちますが、日本人に裏切られるほうがショックが大きいように思います。

おそらく、日本人を「身内」と妄信し、身内に傷つけられたように思うからでしょう。

主人公の父親(佐藤浩市)は作品中でとても大きな位置づけです。

日本にいる親戚にいいところを見せようと無理に送金を続ける姿なんか、私はとても共感します。

彼にとっては、日本にいる人たちが身内で、カナダ人は非身内(私の造語です)。




しかし、主人公たち朝日軍のメンバーは、父親の世代と異なり、生まれや育ちがカナダです。

だからカナダ人が「身内」なのに、身内から差別・冷遇されてよりいっそう苦しいわけです。

父親とは異なる「身内」の感覚が、この映画では表現されておらず、それがこの映画の欠点のように思います。

主人公の妹は日系カナダ人として学生生活を送っています。
「カナダ人として育っている」という、父親と異なる「身内感覚」を描出するはずですが、弱い。

まるで語学留学中の日本人学生が、成績はいいのに上の学校へ行けないような雰囲気になっています(女優さんの演技はすごくよいので、あしからず)。


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このページの後半に、Sleeping Tigerというカナダで作られたドキュメンタリーを掲載しました。

インタビューでは朝日軍のメンバーの日系人、対戦相手の白人ともに訛りのない英語を使っており(どちらもカナダ人ですから当たり前ですが)、違いが肌の色、人種だけなことがよくわかると思います。
(画面を見ずに英語だけを聞いていれば、日系人がしゃべっているのか白人がしゃべっているのか私にはわかりません)


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身内に裏切られ、誰が敵か味方かわからなくなったときに、どうするか?

自暴自棄になったり、逆に人を傷つけ返そうと思ったりはしないか?

朝日軍のメンバーは、身内に冷遇されても、野球というフェアな活動に励み、さらに野球に勝つことで見返し、人々を勇気付けた。





映画が父親(佐藤浩市)に寄りすぎていて、日本人以外の人を魅了しにくくしているように思います。

原作の「同じカナダ人同士なのに」差別を受けたがフェアに見返した、という事実をもっとうまく表現できれば、このストーリーは日本だけでなく、普遍的に人々を魅了するはずです。





だるい間があってテンポが悪い

もうひとつ映画で不満なところがあります。

主人公が、頼りなく、すぐに謝る、はっきりもののいえない人物として描かれています。

「そういうところが日本人はだめなんだ」と叱責されたりもします。(たしかこんな台詞だったように思います)

典型的な日本人、という人柄がうまく演じられていました。

一方で、映画そのものに、沈黙だったり、やたらダルイ「間」があるのです。

小津安二郎の映画のような、無言が多くを語る、というような間ではありません。

観ていてイライラするのです。
この「間」で何が言いたいの?と思ってしまう。

この映画は日本人向けです。
それでも、あえて言わせてもらうと、もし外国で上演すればこのテンポは間違いなく受けが悪いと思います。

そして、あいまいな間が多い、「日本人的な」映画と思われることでしょう。


主役の人柄で示さずとも、映画の「間」が「日本人に特徴的なあいまいさ」を示しているのは、皮肉に思えます。


そこまで意図して作られているのかもしれませんが。


他のページでも述べましたが、私はドキュメンタリー、特にカナダで作られた「Sleeping Tiger」がもっとも見ごたえがあるように思います(英語のみ)。
映画とあわせてぜひご覧ください。



あわせて読みたい

戦時中の日系人について詳しく記載されているのがこちら(Amazon.caの取り扱い)



 
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